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バーミンガム大学ワークショップ「Germany and the Crisis of Liberal Democracy」

 

 2019年6月25日から26日にかけて、英国・バーミンガム大学にてワークショップが開催されました。詳細なプログラムはこちら をご覧ください。

参加報告書

渡部聡子(DESK特任研究員)

  2019年6月25日(火)から26日(水)にかけて、英国・バーミンガム大学ドイツ研究センター(IGS)主催によるワークショップ「Germany and the Crisis of Liberal Democracy」が開催された。このワークショップは2019年1月から2020年12月までの2年間にわたって実施されるIGSのプロジェクト「Shifting Constellations: Germany and Global (Dis)Order」の一環として実施された。このプロジェクトはドイツ学術交流会(DAAD)からの支援を受けており、激変するグローバル政治におけるドイツの役割について学際的に検討することを主な目的とする。ワークショップ(計2回を予定)と国際会議(計1回を予定)には、ドイツや英国の大学からの研究者に加え、世界各国のドイツ・ヨーロッパ研究センターの中から北京大学(中国)、ブランダイス大学(米国)、ヴロツワフ大学(ポーランド)、サンクトペテルブルク大学(ロシア)および東京大学(日本)の各センターから研究者、博士課程学生、関係者らが参加する。これらセンター間のネットワークを活用し、国際的な議論を発展させることもプロジェクトの目的に含まれる。今回のワークショップには、東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター(DESK)から平松英人氏と報告者の2名が出席した。

 プロジェクトの研究課題は以下の4つに大別されており、今回のワークショップもこの分類に沿って行われた。
(1) Institutions:グローバル政治における既存の制度、規則、規範が直面する課題に対し、ドイツはどう応えるのか
(2) People:移民、難民を含む構造的およびアイデンティティーの観点における人の移動に対しドイツはどのように対応するのか
(3) Media:既存メディアに加え新しいメディアが出現する現在、ドイツにおいては誰がどのように世界秩序の混乱について伝えているのか
(4) Ideas and identities:世界的な混乱によるドイツの思想とアイデンティティーの変化はドイツ国内、また国外においてどのように認識されているのか

 リベラル・デモクラシーの危機を議題とする今回のワークショップでは、初めにJeanne Morefield氏(バーミンガム大学)による基調講演「The Liberal World Order: An Imperial Crisis」が行われ、Brexitを生んだ欧州懐疑主義やソーシャルメディア等を用いた新しい直接民主主義の出現、また、トランプ大統領に代表される自国中心主義など、現在、欧米各国が直面するさまざまな問題の根幹には、帝国主義とリベラリズムの歴史的な繋がりがあり、危機に瀕するリベラリズムがそもそも「無実」ではないとの主張がなされた。
   続いて (1) Institutionsが行われ、まず報告者が、環境保護を目的とする市民の自発的な活動と、その活動を法的・経済的に支える制度に着目することで、連邦、州、市民社会における多様なアクター間の相互作用と、転換期にあるドイツ社会国家の新たな将来像が示される、との報告を行った。Julian Pänke氏(バーミンガム大学)は、ドイツはリベラル・デモクラシーの救世主として表象されることが多いが、ドイツは歴史的な背景から国際的なリーダーシップを避ける傾向が強く、「貿易国家(R.ローズクランス)」として経済発展を志向する現実的な戦略をとってきたと述べたうえで、その戦略の一貫性は、ユーロ危機、ウクライナ危機、難民危機を経て失われつつあるのではないかと主張した。
 (2) Peopleでは、Daniel Marwecki氏(ロンドン大学)が、右翼ポピュリズムが台頭する契機として2015年の難民危機について詳述し、難民危機以来、ドイツの過去とアイデンティティーに関わる多くの「問い」を投げかけられているとの見解を示した。Nick Martin氏(バーミンガム大学)は、哲学者ニーチェがアンチナショナリストとして理解され、リベラル左派に支持される一方で、ヒットラーをはじめ人種主義者やファシストにも利用されてきた歴史について指摘し、近年、右派政党AfDも度々引用していることを批判的に述べた。また、Sabine von Mering氏(ブランダイス大学)は、極右の対抗軸として「緑の勢力(環境保護政党)」がドイツでもヨーロッパ全体としても伸張する傾向にあるとしつつも、環境保護運動を個別に検討すると、世代間の分断、また、政党と運動との分断が顕著である点を指摘し、その一方で反イスラム運動(PEGIDA)とAfDが密接な関係にあることへの危機感を表明した。
 翌26日に行われた (3) Mediaでは、Charlotte Galpin氏(バーミンガム大学)が、2017年のオランダ、フランス、ドイツで実施された選挙結果が欧州統合にどのような影響をもたらすのかについて説明した。Maren Rohe氏(バーミンガム大学)は、ロシアの新聞とポーランドの新聞の比較分析を通じて、「リベラル・デモクラシーの防御者」としてのドイツがドイツ国外においてどのように報道され、理解されているのかについて報告した。さらに、(4) Ideas and identitiesでは、Fernando Gómez Herrero氏(バーミンガム大学)が、カール・シュミット著「権力と空間についての対話」を軸にドイツとスペインにおける政治と社会の現状について報告を行った。平松英人氏は、ドイツにおけるキリスト教民主主義をテーマに報告を行い、政党としては左右への分断が生じており、政治的、社会的な求心力を失いつつあるが、その一方、その価値観が民主主義や人権といった概念の戦後ヨーロッパにおける発展に貢献してきた点についても指摘し、現在の危機的状況においてキリスト教民主主義的価値観が担い得る役割とその限界について検討した。Huang Liaoyu氏(北京大学)はHerfried Münkler、Thea Dorn、Dieter Borchmeyerの三者による現代ドイツ文学の分析から、現代ドイツにおけるアイデンティティーを読み解いた。またPolina Zavershinskai氏(サンクトペテルブルク大学)は、集合的記憶(M.アルヴァックス)と文化的記憶(A.アスマン、J.アスマン)の構築という観点から現代ドイツ社会の考察を行った。

 このように今回のワークショップは、参加者がリベラル・デモクラシーの危機を体感し、共有しつつ、その要因と対応策について分野横断的な議論が行われる場であった。とりわけBrexitの渦中にある英国では社会的、政治的、文化的な変化が現在進行形で生じており、国内の大学ではEUに関する授業を受講する学生数が急減したとのお話を伺うなど、Brexitがさまざまな分野に影響を及ぼしているとの印象を強く受けた。奇しくもワークショップ終了直後には、ロシアのプーチン大統領がG20サミットに先立ち、難民危機におけるメルケル首相の判断を「重大な誤り」と批判するとともに、自由主義がもはや「時代遅れ」であるとの認識を表明した。次回以降のワークショップでもこうした最新の動向を踏まえつつ、活発な議論が続けられることが見込まれる。このように貴重な機会を与えていただいたこと、また、ワークショップの運営に御尽力いただいたバーミンガム大学の皆様に心からの感謝を申し上げ、報告の結びとさせていただきたい。



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