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集中講義:DESK-ZDS合同法学入門セミナー

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DESK-ZDS合同法学入門セミナーが開催されました(08年11月21-24日)。

北京で開催された三日間のドイツ法入門セミナーには日中両国から学生の参加があった。このセミナーは、ドイツ学術交流会(DAAD)アジア部長Nina Lemmers氏と同東京事務所長Irene Jansen氏の提案と助言に基づき、東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター(DESK)が、北京大学ドイツ研究センター(ZDS)と協力して実施したものである。

2008年11月21日(金)には、東京大学より五名の学生が北京に到着し、中国側からの十名の参加者とともに、セミナー開始にあたってDESKの森井裕一准教授とZDSセンター長の陳洪捷(チェン・ホンジ)教授の激励と歓迎を受ける運びとなった。

この合同セミナーの講師をつとめたのは、DAAD派遣講師である東京大学大学院法学政治学研究科のトーマス・ヘネ客員准教授(大学院法学政治学研究科)である。ヘネ准教授は、まず、北京大学法学部にてドイツ連邦憲法裁判所の歴史について講演を行ない、ドイツで法治国家の原理が貫徹するうえで同裁判所がもった意義を強調した。また、講演のなかでは、ドイツにおける政治の司法化という点も強調され、講演後のディスカッションではその点をめぐって活発な議論が展開された。

その日の夕方からは、事前に渡されていた大量のテキスト„reading assignments“ に基づく講習の時間が23日(日)午後まで続いた。すべての法領域を網羅する、内容豊富なプログラムである。セミナーの参加者が十分なドイツ語力を有していたのは喜ばしいことであり、„reading assignments“ のような英単語が発されることはセミナー中には実はほとんどなかった。中国側の参加者のなかには、ドイツ法についてもある程度の基礎知識をもつ者が含まれていた。

セミナーで扱われたテーマは、連邦制にはじまり、言論の自由、民法上の意思表示から刑法上の弁明理由にまでおよんだ。最後に行われた模擬裁判では、司法の問題について日中独の三カ国の視点からさらに議論を深めることができた。連邦主義をとることは自律性が強まることを意味するか、「婚姻」という概念は自然法上も憲法上も同じように定められているか、民法上の意思表示は政治的、歴史的条件に規定されない普遍的概念と考えてよいかなど、セミナーでは様ざまな問題が取り上げられ、法解釈学、法制史、法理論の三つの観点を深く結び合わせながら論じられた。

このセミナーはただ出席していればよいという気楽なものではなかった。日本人の学生にとっては、セミナーへの参加が欧州研究プログラムもしくは後期課程で単位として認定されることになっており、セミナー終了時には参加者に対して最終試験と修了認定が行われた。

最終試験と修了認定をもって今回のセミナーは終了したが、合同セミナーは今後も続けられることになりそうである。参加者の評判は上々であり、たとえば中国からの参加の一人として準備作業にも携わった彭竹(Peng Zhu)さんからは「これから二年間、ドイツで法学を勉強するための準備として非常に役立った」という感想をもらった。東京と北京の二つのDAADセンターによる次回の合同セミナーの企画はすでに始まっている。

  • 東京大学DESK=北京大学ZDS 合同法学入門セミナー 参加記

    石崎瑠璃子 (言語情報科学専攻/欧州研究プログラム)

    2008年11月21日から24日まで、東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター(DESK)と北京大学ドイツ研究センター(ZDS)が合同で開催した「ドイツ法入門(Einführung in das deutsche Recht)」セミナーに参加するため、北京に滞在した。3日間の集中講義は全てドイツ語で行なわれ、講義を通してドイツ法システムの基礎を学び、さらに模擬裁判によって知識を応用する試みもなされました。

    北京に到着した21日の夕方、北京側の参加者十数名とわたしたち東京大学側の参加者5名が、北京大学ドイツ研究センター所管の建物の一室に集い、早速セミナーが開講された。初日は、DAAD派遣講師で東京大学大学院法学政治学研究科のトーマス・ヘネ(Thomas Henne)客員准教授がセミナーの講師を務め、ドイツ連邦憲法裁判所の歴史についての講演をおこない、北京大学の教授2名も交えて議論がかわされました。講演、議論ともに非常にわかり易く興味深いものであったという絶賛の声を上げられ、和やかな雰囲気の中で講義が始められた。初日ということで法律自体の内容には踏み込まず、ドイツにおける法の歴史や法理論を概観して第一日目は終了した。

    翌日からは朝9:00~夕方17:30まで、休憩時間をとりながらとはいえ、文字通り集中講義が行われた。この日に扱われたのは公法に属する憲法、刑法であった。前日は時間も短く、日中の学生同士で対話する機会が無かったが、2日目からは休み時間などに徐々に言葉を交わすようになった。そこで判明したのは、北京側の参加者は全員が北京大学の学生というわけではなく、北京市内の別の大学からの参加者が多数いるということであった。また、わたしたち東京大学からの参加者は法学を専門としている者が一人もいなかったのに対して、彼等は全員がドイツ法専攻であるということもわかった。受講中、彼等は怖じることなくヘネ教授に質問したり、休憩中でも講義内容について議論を交わしたり、と真剣な姿勢が窺われた。彼等のモチベーションの高さには驚くとともに、わが身を反省する良い刺激を与えられたと思う。

    3日目、講義最終日は、2日目と同様に朝から夕方まで講義が続くスケジュールだったが、午前中は私法についての講義、午後は修了試験と模擬裁判が行われた。午前中の講義では、北京側の学生のほとんどが「ドイツ民法典(Bürgerliches Gesetzbuch, BGB)」を持参しており、しかもそれには使い込んだ跡が見られ、彼等がドイツ法を予想以上に専門的に学んでいるということを新たに知ることになった。昼休憩をはさんで、午後の講義が再開された。それまではどちらかといえば講義を聴くという受動的な形式で参加していたのに対して、最後の半日で行われた修了試験と模擬裁判は、学生が主体となって参加する能動的なものだった。修了試験は、このセミナーで学んだ知識についての確認を目的として行われた。セミナー中に扱われた項目名や重要単語について学生が説明するというものだが、チームに分かれ先に正解が規定数に達したチームの勝ちというゲーム形式だった。どんな試験が課されるかは事前に知らされていなかったため、学生一同不安と緊張で張り詰めていた空気が緩んだが、しかし皆真摯な態度で試験に臨んだ。模擬裁判は、6チームを弁護側3チームと検察側3チームにわけ、3回の模擬裁判を行った後、3チームを1チームに合併再編してさらに1回行った。各チームは20分間別室に移り、どの条文が適用できるか、相手チームの反論にどう応えるかなどを話し合った。この模擬裁判は、学んだ知識をどう活かすか、という点まで考慮して本セミナーのプログラムに組み込まれたものだと思われる。聴いて終わりではなく、自らの頭で考え実践するという体験型の本セミナーはたいへん有意義であった。

    本セミナーでは、短期間で憲法から社会法までにいたるドイツ法の基礎を網羅的に学び、模擬裁判も行なうということで、非常に濃密で充実した時間を過ごすことができた。北京側の参加者がドイツ法専攻の学生だったため、本セミナーの内容が易しすぎるのではないかという心配は杞憂であった。わたしたちのような専門外の参加者にとってはわかり易く、専攻者にとっても興味深い豊富な内容を含む講義であった。このようなセミナーに参加する機会を得ることができたのは幸運である。DESKとZDSの協調関係の今後のさらなる発展に期待し、一人でも多くの学生がこのような機会に恵まれることを願っている。

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北京大学ドイツ研究センター