シンポジウム等の記録

国際シンポジウム
ヨーロッパの将来―新たな展望

日時:2006.10.12
会場:東京大学駒場キャンパス 数理科学研究科棟 大講義室
主催:ドイツ・ヨーロッパ研究センター

  • 司会

    森井裕一(東京大学助教授)

    ドイツとEUの将来:いまだにヨーロッパ統合の「原動力」なのか?

    Gunther Hellmann(フランクフルト大学)

    EUの憲法化

    Frank Schimmelfennig(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)

    安全保障のグローバル化とヨーロッパ

    岩間陽子(政策研究大学院大学)

    ヨーロッパの停滞と回復

    遠藤乾(北海道大学)

  • xxxxxx
  • xxxxxx
  • xxxxxx
  • xxxxxx
  • xxxxxx
  • xxxxxx
  • xxxxxx
  • xxxxxx
  • xxxxxx

2006年10月12日、ドイツ・ヨーロッパ研究センターは、国際シンポジウム「ヨーロッパの将来-新たな展望」を主催した。シンポジウムには国内外より4名の著名な研究者が招かれ、2つのセッションを通じて、ダイナミックに変化するヨーロッパの将来についての議論がなされた。

シンポジウムの第一セッションはヨーロッパ統合に関するセッションで、遠藤乾(北海道大学)とフランク・シンメルフェニッヒ(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)の両氏が研究報告を行った。遠藤教授の報告では、ヨーロッパ統合に停滞や促進をもたらした要因について、1.米欧関係、2.EUの民主主義とEUにおける各国の主権、3.ヨーロッパの暗い遺産(Darker Legacies of Europe)の3つの観点から論じられた。歴史的に、ヨーロッパ統合は米国への依存の下、米国の利益に資するかたちで進展してきた。そして、イラク戦争において記憶に新しいように、欧米の確執は、ヨーロッパ内部での分裂という危険を引き起こすものであった。このような状態では、米国の単独主義的な行動は不安定要因であり、ESDPの強化が解決策になるのかは不透明である。 また、EUにおける「民主主義の赤字」は本質的には解決されておらず、主権を制約された加盟国の国民が統合の進展を拒否するようになる可能性もゼロではない。そして、ヨーロッパ統合は思想的には、伝統的にアンチ=イスラムとしての側面を有してきた。そのような「暗い遺産」を払拭できるかどうかも今後の統合を占う上で重要な要素になると指摘された。遠藤教授の報告では、ヨーロッパ統合の歴史的意義を高く評価した上で、冷戦終結後、「魂を求めて彷徨う」ヨーロッパにとって、今後の統合の障害となりうる要因についての考察がなされた。

次に、シンメルフェニッヒ教授の報告では、ヨーロッパの憲法化(ここでは「民主主義の憲法化」、すなわち議会の権限強化と人権規定の制度化)の進展する要因について、66の事例を質的比較分析した結果が紹介された。分析結果によれば、重大性(salience)、EUレベルと国際レベルでの規範の一貫性(coherence)、公共性(publicity)の3つの要因が、憲法化プロセスを左右するとしている。最も大きな影響を与えていると考えられるのは、重大性で、ほぼ全ての憲法化プロセスでこの特徴が見受けられたと指摘された。リサーチ・デザインの整った分析結果は、今後の統合の進展を考える上で大変示唆に富むものであった。

第二セッションでは、グンター・ヘルマン(フランクフルト大学)と岩間陽子(政策研究大学院大学)の両氏が研究報告を行った。ヘルマン教授の報告では、「ドイツはいまだにヨーロッパ統合の原動力なのか?」という刺激的な問いが発せられた。氏によれば、ドイツが統合の原動力として機能してきた背景には、独特の国内・国際環境が存在していた。しかし、エリート層の意識や国際環境の急激な変化に伴い、ここ10年ほどでドイツでは国益の再定義が進み、ヨーロッパにおける位置づけも大きく変化した。これにより、ドイツがこれまでのような統合の「原動力」にはなりえないと論じた。かつて語られた “Germany in Europe” というドイツとヨーロッパの不可分な関係は、“Germany and Europe”という若干距離を置いた、新たな関係性へと変化しつつある。この変化は統合の将来にも大きな意味を持ち、今後は、より現実的で政府間主義的な統合が進むとの展望が示された。

最後の報告者となった岩間助教授の報告では、ポスト冷戦期の安全保障環境の変容として「安全保障のグローバル化」を取り上げ、それに対してヨーロッパ諸国やEU、WEU、NATO、OSCEといった地域安保機構がどのように対応してきたのかが論じられた。冷戦期、ソ連の巨大な陸戦戦力を想定して組織された西欧の防衛体制は、旧共産圏の国々を取り込みつつ、冷戦後の地域紛争やテロリズムといった新たな脅威に対抗する柔軟な防衛体制へと変化してきた。今日、ヨーロッパは安全保障上の自立的な力を蓄えつつあるが、その力は限られており、NATOを中心として展開していくという展望が示された。

当日は、平日にも関わらず多くの聴衆が集まり、それぞれのセッションではフロアから様々な質問がなされた。4名の報告者はそれぞれの視点から、現在も大きく変容するヨーロッパの将来について、それぞれの視点から大変興味深い展望を示した。これらの報告に続いて、フロアとの間で活発な質疑応答が展開され、このテーマへの関心の高さを示しているように思われた。ドイツ・ヨーロッパ研究センターでは、今後も「EUとグローバル・ガバナンス」のなかで、ヨーロッパの変容についての研究活動を続けていく考えである。

河村弘祐 (ドイツ・ヨーロッパ研究センター 特任助教)